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2020.07.08 |ブログ

護身術と正当防衛の線引きとは?

目次

はじめに

護身術教室の自知護身です。
今回は、護身術と正当防衛をテーマにしていきます。

護身術というと、華麗な技や反撃が注目されてしまい、法律の側面をおろそかにしがちですが

事件や事案に巻き込まれた際に、後々ついてくるものは法律であることもまた事実です。

数ある護身術の中には掴まれた後にすぐに打撃に移ったり
完膚なきまでに制圧する(いわば護身術ショー)のような技術も見られますが

果たしてそれは逆に罪に問われないか?
正当防衛の定義とは?
過剰防衛にならないか?

などなど
これらに焦点を当てて解説していきます。

この記事はこんな方にオススメ☞

【護身術を今習っている方】
・自分の技術がいざという時使えるか心配な方
・これってやりすぎ?と思っている方
・正当防衛について詳しく知りたい方
・法律について教えてもらってない方

【護身術に興味のある方】
【これから護身術を始めたい方】
これから始める上で護身術と法律の側面を知っておいて損はありません。

【スポーツや競技を護身術に応用してる方】
護身術に特化していない打撃系のスポーツや競技だと、不意に使ってしまったテクニックが思わぬ事故を招くケースもありますので法律の側面を理解しておきましょう。

刑法と民法って何?

まず、正当防衛の定義を知るには、
法律の条文を読み解く必要があります。

法律には刑法と民法というものがあり
簡単に説明をすると、

【刑法】とは警察が介入し解決するもの
【民法】は個人間の紛争を解決するもの

と、ざっくり覚えておきましょう。
ここでは
もし、自分が被害者の立場でありながら
万が一相手に怪我を負わせてしまったら?
という前提の元

刑法上での解説を主にしていきます。
というのも、私たち一般人が巻き込まれた際に注意すべきは

「自分が被害者であるにも関わらず、相手に怪我を負わせてしまったことにより加害者になってしまう可能性」

であると言えます。

民法は相手方から訴えられる等の可能性としてはもちろんがありますが、
刑法では最悪の場合、一定期間留置場などに入る可能性もありますし弁護士を立てる必要が大です。

それでは実際の条文には何と書かれているでしょうか?

正当防衛の定義

【民法第720条 】
他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。


【刑法第36条】
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

正当防衛が成立する5つのポイント☞

■ポイント
①不正の侵害であるかどうか
②急迫性があるかどうか
③防衛行為の必要性があるかどうか
④防衛行為の相当性があるかどうか
⑤防衛の意思があったかどうか

それでは一つずつ見て行きましょう。

①不正の侵害であるかどうか

条文には
『急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため』
とあります。

不正の侵害とは、生命・身体・財産などの権利に対して害を与える行為でありなおかつ違法性があるものを指します。

ここでいう権利とは法的に守られるべき生命・身体・財産などが一般的に考えられ
生命>身体>財産の順に優先度が高いと考えられていることも重要です。

②急迫性があるかどうか

上記①の権利侵害行為について、現在進行形で切迫しているものが急迫性であるという意味になってきます。

例えば刃物で襲われたとして制圧後すでに動かない相手に対して殴る等の攻撃をして怪我をさせた場合は「すでに危険ではない状態」だったとして正当防衛が認められず暴行罪、傷害罪に問われる可能性もあります。

③防衛行為の必要性があるかどうか

続いて条文には
『やむを得ずした行為』
とあります。

例えば逃げる余裕があるのに、積極的に攻撃をして相手を制圧した場合はやむを得ずした行為なのか、つまり防衛行為の必要性を否定される可能性があります。

④防衛行為の相当性があるかどうか

上記急迫不正の侵害の危険を回避するためにとった防衛行為が、防衛のため必要最小限度のものであったといえるかという判断基準です。

例えば相手が素手に対してこちらが刃物で防衛する、相手は自分の財産を侵害しようとしているのに相手の身体を傷つける、このような場合は、その行為がやむを得ずした行為であったのか、つまり防衛行為の相当性が否定される可能性があります。

⑤防衛の意思があったかどうか

例えば、事前に襲われることを想定してナイフを持っていたなど準備をしている場合、または攻撃を予想してそれに乗じて積極的に傷つけてやろうという場合は、それがやむを得ずした行為なのか?
つまり防衛の意思が否定される可能性があります。

このことから意思とは
主観的な防衛の意思ではなく、客観的に見て防衛の意思があったかどうかで判断されます。

正当防衛が認められると…

要件を満たし、正当防衛と認められた場合は、例え相手が怪我をして、死亡した場合でも罪に問われることはありません。

仮に過剰防衛で傷害罪となってしまったとしても情状酌量の余地が認められた場合はその罪が軽くなる場合があります。


よって、事件や事案が起こってしまった後、自身がこれらに該当しているかをチェックしていく必要があるでしょう。
もちろん、後で大丈夫です。緊急事態での現場でこれらを考えている暇はありません。

また、これらを頭にしっかり入れておき日頃からトレーニングをすることで正当防衛に準じた護身術の練習をすることができると言えます。

だが正当防衛を過信するな!

しかしながら、実際の事例でもそうですが正当防衛に明確な判断基準はなく、通常、刑事事件であれば正当防衛を主張した場合でも重大であれば逮捕、勾留は免れない場合があり、不起訴とならず裁判手続に移行する可能性も十分あります。

この場合は無罪を求めて正当防衛の主張を行っていく事になりますがかなりハードルは高く、甚大な時間やお金がかかる可能性があります。


だから自知護身で真っ先に教え、我々講師達が口うるさく言っていることが

『逃げろ』

なのです。

実際に無罪となった事例紹介

それでは実際にあった判例を見ていきましょう。

いざというときの正当防衛はどんなケースで成立したか
ご自身が巻き込まれてしまった場合の
もしもの時の参考にして下さい。

しつこい酔っぱらいを撃退したら…

経営者のNさん(40代男性)は、自宅近くにある夜の繁華街で、酔っ払った男性にしつこく絡まれました。

「ぶっ殺すぞ」
とその場で脅された上、何度も殴る蹴るの暴行を受けました。
Nさんは両腕で顔面や腹部などをガードして防ぎましたが、相手の暴行はエスカレートしていく一方。
そこでNさんはこのままでは身の危険を感じ相手に1発パンチ。
それが的確に男性の顔面にヒットし、酔っぱらいの男は路上に倒れ込みました。

助かった。
そう思ったのもつかの間、事態は思わぬ展開に。

男性はそのまま動かなくなり、意識不明。
救急搬送先の病院で死亡が確認されました。
死因は脳挫傷に伴う急性硬膜下血腫です。

Nさんは逮捕され、傷害致死罪で起訴。
「相手から理不尽な暴行を受けたので、身を守るために一発殴っただけだ」とNさんは正当防衛を主張。

検察は、Nさんが男性を一方的に殴って死なせたと主張し、さらに検察側の目撃証人は「被告人が圧倒的に優勢だった」と証言。

Nさんは弁護士を付け、弁護側が正当防衛を成立させるべく調査していきました。
弁護側は、事件の前に男性が利用していた居酒屋の店主や店員の証言によって、男性が酒を飲むと暴力的になり、その日も店員や客にケンカを売っていたことを明らかにしました。
コンビニの防犯カメラでは彼の足取りがしっかりしていたことを立証しました。
そしてさらに、男性が「特発性血小板減少性紫斑病」という血液の病をもっており、僅かな刺激でも大量に出血する体質だったことを突き止め、主治医の先生に証言をしてもらうことに成功。

約1週間にわたる裁判員裁判の結果、
Nさんは正当防衛の成立を認められ無罪となりました。


一見、正当防衛になると思えてしまう状態でも相手が亡くなってしまった場合や重大な怪我を負わせてしまった場合、正当防衛が成立し無罪となるまで時間と労力がかかってしまうケースでした。

助けようとしたはずの自分が逮捕…

深夜、見知らぬ男性と口論になり暴力を振るってしまったという男性Oさん(自営業男性)の暴行事件。

ある夜、自宅を兼ねたお店のなかにいたところ外で数名の男性が騒いでいる声と女性の悲鳴のような声が聞こえたことから、不審に思い外に出て注意をした。
すると、そのなかの一人の男性(20代Bさん)の反感を買ってしまい、BさんがOさんのいるところまで押し掛けてきて押し問答となったので、Bさんの頬に軽く平手打ちをしてしまったとのことでした。


この事件では事件の後、相手方の男性Bさんがすぐに警察に通報し、Oさんは駆け付けた警察官に警察署まで連れていかれ事情聴取を受けることになりました。
その際Oさんは、今回の事件は正当防衛であることなどを懸命に訴えましたが、警察側には一切調書にしてもらえませんでした。

また、警察官から
「これは喧嘩だ」
「こちらに任せてくれ」
といった趣旨の説明を受け、
警察官から言われるがままに相手方Bさんの言い分どおりの自白調書を作成。

その後は罰金を支払うように指示されました。

そこでOさんは、納得できないという思いが強くなり、弁護士に相談。

Oさんの話を前提にすると、正当防衛が成立するか、仮に成立しないとしてもBさんの行為が事件を誘発した側面が強いと思われる経緯である今回のケース。

その後の取調べにおいては、正当防衛を基礎づける事情(事件に至る経緯の部分)を強く訴えることとしました。

検察官は当初,OさんとBさんの間で示談をする意向があるのか尋ねてきましたが(OさんがBさんに示談金を支払うことで不起訴になる可能性有り)示談はせず、Oさんの主張を強く訴えることとしました。

そして弁護側から検察官に対して意見書を提出し
“本件は正当防衛が成立する事案であること、仮に正当防衛が成立しないとしても、Bさんの行為が事件を誘発した側面が強いこと”
などから不起訴とするべきであると強く訴えました。

その結果Aさんは不起訴となりました。


今回は警察官の事務処理上の勝手な都合で危うく正当防衛が認められなくなる可能性のあったケース。
もちろん、全ての警察官がそうではありませんし何かあった際に警察に相談することは基本的に良いことではありますが、今回の例のようなことも起こり得ます。

正当防衛が成立するまである程度の時間がかかっていることがうかがい知れます。

喧嘩は正当防衛になる…?

2016年に埼玉県川口市内の路上で
60代男性Sと40代男性Kがトラブルになり、
Sに自転車で道を塞がれた為Sの自転車をKが蹴ったところ、それに対し激怒したSに何度も殴られた。
その為Kは1発殴り返して転倒させ、Sの頭に全治6ヶ月の重傷を負わせた。
Kは傷害罪で起訴され求刑は懲役3年。

40代男性Kに対し、さいたま地方裁判所が出した結論は

「Sの行為は質的にも量的にも上回っており、Kの反撃は正当でないとは言えない」

つまりKの身を守るために行った反撃は正当である
として正当防衛を認め、無罪を言い渡した。


こちらは最初に被告側が自転車を蹴ってしまったことが喧嘩の発端でした。
最終的に無罪だったとは言え、相手への挑発になる行為は決して良いことではありません。

結果的に相手から手を出され
身を守るために行った最低限の防衛行為が正当防衛と認められた例と言えます。


以上3つの事例でしたが、あくまで判例であり状況によっても変わりますのであくまで参考までに留めておいて下さい。

自知護身からのアドバイス

このように日本の法律で正当防衛に当てはめてみると、身を守るために行った行為でも正当防衛となるには警察や検察への主張や弁護士を立てる必要がでてきます。
特に最初の段階での警察への主張は必ず行って下さい。



そしてまずは、もし危険な場面に遭遇してしまった時は、護身術の行使の前に“逃げる”ことを最優先して下さい。
必ず、逃げる手段がないか考えて下さい。


しかしながら現実の世界は無情にもその判断を鈍らせることでしょう。
「逃げることさえままならない」
「自分の命や大切な人の命が危ない」
そう判断した時に、切迫している状況下で正当防衛について当てはめている余裕などありません。

自分や大切な人の生命を守るために、護身術=相手を一時的に制圧する場合は
躊躇しないで下さい。
必ず生き延びて下さい。

法律は犯罪の抑止や犯した者を罰するためには非常に効果があります。そして法律に則って行動するべきだと自知護身も考えます。

しかし凶悪な犯罪や目の前の暴力に法律そのものは無力です。

自分の身は自分で守らなければなりません。
以上を踏まえ、法律の知識は持ちつつもいざという時に行動ができるように日々のトレーニングを行っていきましょう。


法律を頭に入れておきながらトレーニングをすることでいざというときに適切な判断をすることにもつながります。

終わりに

いかがでしたでしょうか?

様々な護身術を教えているところがあり
色々なテクニックがある中で
目の前の技術だけにとらわれてしまうことは多々あります。

しかし皆さんが護身術を使う場面というのは、事件など犯罪現場であることも少なくありません。

その際に自分には
どんなリスクがあるのか?
この後の問題とは?
それらを理解しているだけでも冷静に判断していく材料となります。

それらを頭に置きながら護身術のトレーニングや日常を過ごして頂けると、いざというときの本当の身を守ることに繫がるのではないでしょうか。

以上が護身術と正当防衛についてでした。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。